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「アメと傘と私のココロ」          by鍵犬








 ――全ては自分の気持ちの持ちようです


 昼間なのに薄暗い部屋の中で私は膝を抱えている。サイドボードに置かれた写真立ての中で笑って
いるのは仲むつまじい二人の男女。


 「朋也・・・」


 小さな声でそう呟く。世界がモノクロだった。

 終わりはもの凄くあっけ無くて。ほんの些細な言い争い。だけど、それで私と朋也の三ヶ月と少しは
終わった。


 「こんなの寂し」


 口から勝手に出た台詞に自分でもビックリして、すんでのところで飲み込む。


 「・・・くなんか全然ないわよね。当然」


 喉の奥からそう絞り出して、やっと私は安堵のため息を漏らす。

 朋也には昨日さよならを告げた。自分から言い出した事なんだし、私は未練がましい女じゃないし。
今更、追いかけてどうこうするようなものでもない。

 元気が取りえの私ならダイジョウブ。きっとダイジョウブ。うんっ、絶対ダイジョウブ!!


 「多分、ダイジョウブ・・・」


 膝に顔を埋める。


 ――アメはあなたの泣き顔です

 ――ハレはあなたの笑顔です

 ――今日の天気はどうですか?


 ドアが静かに開く。


 「・・・お姉ちゃん、どうしたの?」


 不思議そうな顔で私を見つめる椋。


 「えっ、いやっ、別に何でも無いわよ」

 「そう・・・なの?」


 私は反射的に精一杯の元気な声でそう言った。

 さっきから部屋の隅の方でじっとしていたボタンが急にトトトトと椋の足に纏わり付く。椋がゆっくりと
持ち上げ胸の所で抱きかかえた。

 いつもは、ボタンから椋に近づいていくことなんて無いのに。


 「ねぇ、今から買い物に付き合ってくれないかな?」

 「ゴメン、今あたし、そんな気分じゃないから」

 「えっ、何で?行こうよ。今日は私がお昼ごはん奢るから」


 椋にグイグイと手を引っ張られる。


 「痛い、痛いってば」

 「えーっ、どうしてもダメなの?」

 「・・・もうっ、分かったわよ。すぐに準備するからちょっと待ってて」


 そんなにウルウルとした目で見つめられては、そう答えるより仕方が無い。

 気分は全然乗らなかったが、可愛い妹のため私は重たい腰を持ち上げた。やけに身体が痛いと
思ったら、昨日の夜からずっと同じ体勢だったことをようやく思い出した。








 ――今日は生憎のお天気のようです

 ――傘はちゃんとありますか?


 「見て見て。この、ワンピースすごく可愛いんだぁ」

 「うん、あんたに似合ってるんじゃない?」

 「やっぱり、そうかなぁ」


 さっきから椋はお財布とにらめっこしている。少々手持ち無沙汰になったので、ついでに連れてき
たボタンをラグビーボールモードで遊ぶ。乾いたアスファルトによく弾む弾む。

 ふと目に付いたのは斜向かいのゲームセンター。


 「そう言えば、朋也とプリクラ一緒に撮ったこともあったっけ」


 二人で仲良くブイサインして撮ったヤツ。わざとヘンな顔して撮ったヤツ。朋也のホッペにキスして
撮ったヤツ。

 あの時の朋也ったら、もう、すんごく照れちゃって顔真っ赤にしてたな。


 「ふふっ」


 思い出したら可笑しくて。一人で笑ってこれじゃあ、ただのヘンな子だ。

 そんでその後、あたしがふざけて朋也のオデコにそのプリクラ貼ったの。そしたら、急に真面目な顔
になって、強引に唇にキスしてきて、それは私のファーストキスで、お昼に食べたハンバーガーの味が
して、頭がボウっとして、胸が切なくなって、とってもとっても幸せで・・・


 「あれ?」


 やだ、あたし泣いてるの?商店街の真ん中で?


 「お姉ちゃん・・・?」


 紙袋を手にした椋が不思議そうな顔をして私を見ている。


 「ん、あたしはダイジョウブだよ」

 「だって目が真っ赤」

 「平気、平気」


 ジャージの裾で目の周りを拭う私。


 「それより、さっきのワンピ買ったんだ」


 そう言った途端に椋の顔が綻ぶ。


 「うん、実は来週の日曜日に勝平さんとデートなの」

 「へぇ、そうなんだ」

 「たまには新しい服で、新鮮な私を見て欲しいなあって。キャッ!」


 一人で言って一人で恥ずかしがってる。

 本当に幸せそうな椋の笑顔に釣られて私も微笑む。


 ――だんだんとアメも激しくなってきました

 ――早く傘を差さないと、風邪引いちゃいますよ


 「じゃあ、買い物も済んだし、約束通りお昼ごはん奢るね。どこに行く?」

 「あっ、ゴメン。あたしこれから、ちょっと用事あるの」


 頬に再び熱いものを感じ、私は一旦椋から視線を外して反対側を指差す。


 「ははあん、分かった。岡崎さんと待ち合わせでしょ?」

 「まぁ、そんなとこかな」

 「本と二人って仲いいよね」

 「あんた達には負けるわよ」


 椋とボタンを残したまま、それじゃあと言ったきり、私は後ろを振り返らずにその場を立ち去った。




 ――どうか明日はハレますように・・・

 ――どうか明日はハレますように・・・








 -END-




 あとがき


 超短編SSです。年明け早々からなんてネガティブなSSなんだろうと自分でも思いました。

 多分、神主あんぱんさんのだだ甘SSと足して二で割ったら普通のSSになりますw

 ちなみに、地の文で杏の一人称が私とあたしで混ざっているのはわざとです。



倉など。など。