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「朋也君のハッピー!性生活 2nd Stories」         by鍵犬

〜戀セヨ乙女(こいせよおとめ)/青春演劇部員編!?〜





 -1-




 ガラララッ


「ごめーん、掃除当番で遅くなっちゃった」


元気一杯に藤林杏が演劇部の部室のドアを開け放つ。大学受験も近づいてきているため、放課後の
顔出しも、近頃はおよそ週ニのペースである。

 彼女が部室に入って目にすぐに入ったのは、ドアに背を向けて椅子を並べる杏の双子の妹の藤林
椋と学年一の秀才である一の瀬ことみの姿、その次には二人の傍らに立っている演劇部部長こと古
河渚の姿であった。そして、あともう一人、女の子ばかりの部室の中で、白一点の岡崎朋也の姿・・・
が普段はあるはずなのだが、どうやら今日はまだ来ていないらしかった。


「朋也はまだ来てないの、部長?」

「え、あっ、はい。朋也君ならさっき先生と一緒に職員室に行くのを見ました」

「なるほど、それじゃあ、しばらく来れないわね」


朋也は恐らく出席日数の関係で担任に呼び出されたのだろう。杏の見立てによれば、早くて二時間、
場合によっては五時間は戻ってこれそうにないという結果だった。合点がいって一人頷く杏。そして、
もう一度、渚に視線を向けた杏は、いつもと違う彼女の表情に気づいた。


「あれ? 部長の顔赤いわよ。大丈夫?」

「あうっ、だ、大丈夫ですっ!」


そう答えた渚の視線がすっと横に流れる。杏も釣られて視線を横に移す。その視線の先には、どう
やら何かの雑誌を読んでいるらしい椋とことみがいた。さっきから二人は肩を並べ、熱心に視線を下に
落としている。その二人の熱中ぶりたるや、杏が入ってきたことに気づいていないほどだ。時折、ため
息ともつかない声が二人の間から漏れていた。


「ちょっと、さっきから二人して真剣に何読んでるのよ?」

「あわわっ、杏ちゃんダメですっ!!」

「えっ、なんで? 見せてくれても、いいじゃない別に」


ぜんまい仕掛けのおもちゃのように手をぱたぱたと振って必死に杏を止めようとする渚。しかし、見る
なと言われると余計に見たくなってしまうのが人情というものである。

 渚の制止を振り切って椋とことみの肩越しに顔を覗かせる。


「なっ・・・・」


 杏の目に飛び込んできたのは裸の女の写真だった。しかも、その女は口を窄めて何かを咥えていた。
言わずもがな、それはモザイクが掛かっているにせよ、誰の目にも明白だった。杏は液体窒素のプール
に放り込まれたように凍りつく。そして、その隣で慌てる渚。そんなことはお構いなしの椋とことみ。


「こらーっ! 女の子がこんな本を読んじゃいけませんっ!!」


きーんと響く大きな声を中心に部室に流れる時間が数秒間停止する。再び時間が動き出した時には、
二人が読んでいた淫らな雑誌は杏の手によって取上げられ、部室の隅のゴミ箱の中に納まっていた。


「ああっ、まだ少ししか読んでないのに・・・」

「杏ちゃんひどいの・・・」


自分達の手から雑誌が消え、やっと杏の存在に気づいた二人は、口々に不満げな声を上げた。


「大体、あんな雑誌どこから持ってきたのよ?」

「部室にあったダンボールの奥からことみちゃんが見つけたんだよね」

「そうなの。大発見なの」


誇らしげに胸を張ることみに、杏は頭が痛くなった。きっと、廃部になる前の去年の演劇部の誰かが持っ
てきて隠したものに違いなかった。


「大体、ことみはそんなの見る必要ないでしょ。その・・・ 彼氏だっているんだから」

「え、お姉ちゃん、それってもしかして・・・ 朋也君のこと?」

「当たり前じゃない。だって、二人が付き合ってもう三ヶ月になるのよ。普通ならそりゃあもう、アレはとっ
くに済ませてるはずよ」

「アレって・・・ えええっ!!ことみちゃん、そうなの?」

「ほっ、本当なんですか、ことみちゃん!?」


雑誌が見つかってからは傍観を決め込んでいたはずの渚も、この話題に関しては真剣な面持ちで食い
つく。その場にいる全員の視線が集まる中、ことみは少し考える素振りを示してから、どこまでもマイペー
スに小首を傾げた。


「うーん、まだなの」


ことみの口から出たその台詞を聞いた瞬間、三人は思わずお互いに顔を見合わせていた。と同時に三人
から漏れたのが、驚嘆の声ではなく安堵のため息であったことは、それほど想像に難くないだろう。


「え、えっと・・・ とにかく、そういう本はまだ、あんた達には早いの」

(ボソッ)お姉ちゃんだって、一人でこっそりそういう漫画読んでるくせに・・・

「はい? 椋ちゃん、何か言った?」

「ううん、何でもないよお姉ちゃん。えへっ」


取り繕うような杏一言で、取り敢えずその場は収まったのだった。




 -2-




 地平線までオレンジ色に染める夕焼けは、今朝の天気予報通り一転して雷を伴う激しい雨にに変化
した。地面に叩きつけられる雨粒の音を聞きながら、杏は独り廊下を走っていた。


「最悪だわ。部室にノートを忘れるなんて・・・」


ぶつぶつと独り言を呟きながら、一階から三階までの階段を一気に駆け上がる。

 杏が明日の宿題のノートを部室に置き忘れたことに気づいたのは三人と別れた後だった。もちろん、
三人というのは椋、ことみ、渚のことである。あの後、朋也は結局部室に姿を現さなかった。

 部室のドアを開けて中に入り、木の椅子の上に置きっぱなしになっているノートを杏は発見する。パ
ラパラとページを繰ると、ノートはことみから教えてもらった答えで埋め尽くされていた。満足げに頷き、
かばんにそれを仕舞う。そして、そのまま今夜の夕食当番に間に合うように踵を返して部室を出ようと
した時、ふと何かを思い出したように自然と足が止まった。

 視線の先にゴミ箱を見る彼女の脳裏には、放課後に椋とことみが読んでいた雑誌のことが浮かんで
いた。


(まったく、あの子達は学校でこんなの読んで、よく恥ずかしくないわね)


心の声とは裏腹に気がつくと、杏の手はゴミ箱の中から雑誌を拾い上げていた。


「あの子達の保護者として、一応確認するだけだからね・・・」


まるで、見えない誰かに言い訳するように何度か同じ言葉を繰り返してから、彼女は先頭から順番に
ページを開いていった。


「・・・・・・」


雑誌の中で繰り広げられるレディス・コミックとは全く違う、女の生々しい痴態に杏は息を呑む。まるで、
百メートル走の後のような心臓の高鳴りを感じた。

 特に、その中のある一ページで彼女の手は止まった。それは、女と一緒に男性器が写っているページ
だった。男兄弟がいない彼女にとって一番最近それを見た記憶と言えば、小さい頃風呂場で父親のを
見たことくらいなものだ。だが、その記憶でさえ相当風化して朦朧としていた。


「ふーっ・・・」


一通り読み終え、雑誌をパタリと閉じる。しかし、杏の頭には閉じた後にも雑誌のあのページが鮮明に
残っていた。悪いことをした後のような背徳感とそれを上回る興奮とで、しばらくの間雑誌を片手に放心
していた。

 それから、どれくらい時間が経っただろう。仮に、それが数秒であったとしても杏にとっては、とても長
い時間に感じられた。結局、杏が我に返ったのは、廊下の遠くから人の足音が聞こえた時だった。


「やばっ」


こちらに近づいてくる足音に慌てた彼女は、無意識のうちにかばんの中に雑誌を突っ込んでいた。少し
してから、隣の教室でドアの開く音がした。




 -3-




 雨は未だ激しく降り続いていた。折りたたみ傘をさした杏は、水溜で靴を汚すことも厭わず、通い慣れ
た通学路を家に向かってぼんやりと歩いていた。

 傘骨から途切れることなく垂れ続ける水滴を眺めながら、杏は放課後部室で聞いたことみの台詞を
フラッシュバックさせる。


(朋也とことみはまだエッチしてないんだ。だったら、あたしにもチャンスはまだあるかも・・・)


 次に、朋也の姿を頭の中に思い描く。ちょっと間が抜けてるけど別にそれほど悪くない顔。意外と見た
目よりも厚そうな胸板。そして・・・・。そこまで想像して顔を赤くする杏。どうしても、先ほど見た雑誌の
せいで想像がいかがわしい方向に行ってしまう。彼女はそんな自分に渇を入れるかのように頭を大きく
横に振った。


(はぁーっ・・・ 今日のあたしは何だか変だ。大体、何であんなもの持って来ちゃったんだろう・・・)


自分のかばんに目をやり、大きなため息をつく。自分自身でもさっぱり分からなかった。

 その時、彼女の背後から突如騒々しく水を撥ねる靴音が近づいてきた。


「おーい、杏っ!!」


杏が声のする方を振り返ると、息を切らして朋也が雨の中を傘もささずにこちらへ駆け寄って来ていた。
杏の心臓が一瞬止まりそうなくらいにドキリと強く脈打った。


「傘忘れてきちまって、ちょっとそこまで入ってもいいか?」

「えっ・・・ う、うん」


雨粒が滴る前髪をかき上げながら、朋也は杏の傘の中に身体を半分入れる。もともとそんなに大き
な傘ではないので頭が濡れないという気休め程度でしかない。相変わらず、朋也の左肩は雨に濡れ
ていた。

 一方の杏も、朋也に気づかれないように平静を装うので必死だった。


「随分、絞られてたようね」

「ったく、担任には職員室に拉致られるし、いきなり雨は降ってくるしで、今日は最悪の一日だ」

「それは、授業をサボるのと、ちゃんと天気予報を見ないのが悪いんでしょ」


杏の突っ込みにそりゃそうだと笑う朋也の制服は、どしゃ降りの中走ってきただけあって重たそうに
変色していた。


「ちょっと、あんたの制服ずぶ濡れじゃない。ウチに寄って行きなさいよ。洗濯してあげるから」

「えっ? 寄ってけって言ったってお前のウチ、俺んちと反対方向じゃないか」

「う、うるさいっ、つべこべ言わずあんたはウチに寄ればいいのっ!!」

「はいいっ、喜んで!」


予想外の杏の剣幕に気圧されて、朋也は思わずそう答えた。一方の杏は今出た自分の言葉にはっ
と顔を赤らめ、濡れたアスファルトをじっと見つめていた。


(まあ、ウチに帰っても着替えてすぐに春原のところに行くつもりだったからな・・・)


 若干弱くなった雨の中、二人は肩を並べながら、杏の家へ向けてゆっくり歩き出した。








 -続く-