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「朋也君のハッピー!性生活 2nd Stories」         by鍵犬

〜夕波の詩(ゆうなみのうた)/杏編〜





 -1-




 静まり返ったベビーブルーの海から聞こえてくるのは規則正しい波音。長い髪を左で結わう白い
リボンが印象的な少女を撫でるようにすり抜ける潮風。そして、夏が過ぎ去ったことを忘れている
かのように頭上から照りつける太陽光は、うす雲のフィルターに吸収され柔らかだった。

 一歩一歩その砂地の感触を確かめるかのようにして、少女は海の方へと歩んでゆく。砂浜に靴と
靴下を一緒に脱ぎ捨てて、白く輝く海水へそっと足を浸す。季節外れの海はほのかな夏の温もりを
少女の薄い皮膚に伝えていた。


「まだ、温かいや・・・・・・」


独り言のように小さく呟いた少女は、優しい水のベールを足に纏いながらそっと目を閉じる。




 懐かしい波の音がまた一つ、二つ・・・。




 思い出すのはちょうど三年前の日の記憶・・・。




 -2-




 バスが郊外を抜けると、色づき始めた桔梗林が窓一杯に広がった。舗装の行き届いた山道はなだ
らかな曲線を描いている。人もまばらな車内でカジュアルな格好をした少年の隣に少女はいた。二人
は互いを朋也、杏と呼び合いお互いに気兼ねなく冗談を言い合っていた。傍から見れば、仲の良い友
人同士といった関係に見える。


「それにしても朋也が遠出しようなんて、珍しいこともあるものね」

「お前だって、俺がたまにちょっと遠い所にデートに行こうとすると面倒くさがる癖に・・・」

「それはあんたがお金がないっていつも言うから気を使ってあげてるのよ」

「うっ・・・」


杏にすまし顔で痛いところを突かれ、朋也は思わず言葉を詰まらせてしまう。やはり世のカップルの多く
がそうであるように、口では女の子に勝てない。


「・・・ところで、一体どこ行くつもりなのよ?」


デートの行き先すら知らされず半ば強引に連れられて来た杏は、光の当たり具合では鈍色にも見える
大きな瞳をくりくりさせて尋ねた。それに対して、さっきのお返しとばかりに朋也は妙な含み笑いをして、
答えるのをもったいつける。その態度が余計に杏の好奇心を掻き立てムキにさせる。余りのしつこさに、
朋也はついに観念したように口を開いた。


「海だよ、海!」

「はあっ!?」


予想だにしなかった朋也の季節外れの回答に、杏は思わずすっとんきょうな声を上げていた。




 -3-




 二人を乗せたバスは秋に彩られた山道から、急にぽっかりと口を空けたトンネルへと入ってゆく。
長いトンネルを抜けると、急に沢山の光の粒子が車窓越しに襲いかかってきた。二人は薄目を開け
て、外の明るさに少しずつ目を調節する。視界がはっきりした杏が外の風景に目を向けると、そこ
には広々と横たわる海がガードレール越しに燦然と広がっていた。

 海水浴場前のバス停で下車した朋也は、未だ状況が飲み込めていない様子の杏の手を引っ
張るようにしてずんずんと砂浜へ続くアスファルトの階段を降りる。浜の入り口には「立ち入り禁止」
と書かれた札の下がった鎖が一本張ってあった。


「・・・ちょっと朋也、ここに立ち入り禁止って書いてあるわよ?」

「そんなの関係ねえって」


心配げな杏をよそに、朋也はそれを事もなげに乗り越えてみせる。朋也が手を差し出すと、杏もスカート
の裾を気にしながら仕方なさそうに後に続いた。

 夏には多くの人で賑わいを見せる海水浴場も、シーズンオフのため今は人っ子一人いない。砂浜
に時々落ちている割り箸やら、ビーチサンダルらしき物体が夏の終わりを想起させ一層の秋愁を誘う。
ただ遠くから波音が等間隔で聞こえるばかりだった。杏はこんなところに連れて来た朋也の真意が
全く理解できなかった。


「よりによって、何でここなわけ・・・」


頭が痛そうに杏は言った。確かに、もっと他に男女が二人で遊ぶところはありそうなものだが・・・。


「ほら、来て見ろ杏。楽しいぞ」

「ひやっ!?」


その声に振り返った杏の顔に冷たい飛沫がかかる。いつの間にか朋也はGパンの裾を捲り上げて
海水に膝を漬けていた。杏の前髪から垂れた雫が胸の上に一つ落ちる。


「と〜も〜や〜、よくもやってくれたわねっ!!」

「お、おい・・・ うわっ、冷てっ!!」

「ふふん、今のお返しよ」


 気がつけば杏も靴を脱ぎ捨てて、秋日に光る海で二人ははしゃぎ合っていた。しばらくしてから浜辺
に上がり、お互いの服がずぶ濡れになっていたのを見て、どちらともなく吹き出してしまった。その後、
珍しい貝殻を浜辺で探索したり、少し離れた岩場に行ってカニを捕ったりした。


「よし、どっちがカニを多く捕まえられるか勝負だ!」

「ご近所では、カニ捕り小町と恐れられているこの私に勝負を挑むとはいい度胸ね。望むところよ!」

「どうでもいいけど、それ微妙にかっこ悪いぞ・・・」


まるで子供に戻ったように、時間を忘れてカニの隠れていそうな岩影を捜す杏の表情からは、もはや
最初に来た時の不満げな色は消えていた。








 -続く-