朋也君のハッピー!性生活〜古河家の人々編・前編〜
                              ・・・・・・・・・・・・・・・鍵犬


「ぬあにぃー、オッサンが浮気ぃ!?」

「はいっ、絶対してると思います。夫婦の危機ですっ」

薄暗い部屋の中で、渚は天井の一点を見つめている。掛け布団の隙間から何もつけていない可愛ら
しい渚の乳房が覗いていた。

まあ、つまり男女間での営みの後というわけだ。

「俺はオッサンが浮気するなんてとても思えないぞ」

ちょっと手を伸ばせば届く距離にある乳房。その先端には可愛らしい桜色の蕾。

「でもお母さんによると、昼間にバットも持たないで時々どこかに出かけて行くことがあるみたいです」

行為の直後ということもあってか、その蕾はまだ息づいて尖っていた。

「最近は、毎日のように外出してるみたいで・・・」

(吸いつきてぇ・・・)

思い出すのは、赤ん坊のころの記憶。そして、それは顔も覚えていない母親の記憶に変わっていく・・・

「もうっ!おっぱいばっかり見てないで真面目に聞いてくださいっ!!」

渚が布団を身体に巻きつけ、ガバっと起き上がる。

「い、いやちょっと母親の記憶を・・・」

「朋也くん、やっぱり変態ですっ!!」

エッチから変態に昇格していた。

これ以上やったらまた、口を利いてもらえなくなりそうなので止めておこう。いやそれだけならまだしも
そこからさらに進化した第二段階の方が恐ろしい。

・・・で、何の話だったっけな。

「ぬあにぃー、オッサンが浮気ぃ!?」

って自分で言った所までは覚えているのだが・・・

「・・・そうか、オッサンは時々昼真っから自分の自慢のバットを振り回して早苗さんのおっぱいを母親
代わりにしているのか。夫婦円満だな。で、浮気の話とは一体何の関係が・・・?」

取り合えず、記憶の断片をコラボレーションしてみた。

「・・・・・・・・」

「おーい、渚ちゃん。目が怖いよ〜」

「・・・・・・・」

「できれば金的だけは勘弁してくだ・・・・」

ゴスッ

俺のガードより渚の肘のほうが一瞬早かった。





日曜日。天気は晴れ、ポカポカとした陽気が実にすがすがしい絶好の外出日和だった。俺達はオッサン
との約束を果たすために定期的に古河家を訪問していた。

その道中。

「あれっ、あそこにいるのお父さんじゃないですか?」

渚が指差す先は横断歩道の向こう側。言われてみれば確かにオッサンのような気もするが、何せ距離が
遠くてよく分からない。

「ん〜、ここからじゃよく分からないな」

近づこうにも信号機は今赤に変わったばかりだ。渚はちょこまかと動き回りながらその姿を確認しようとする。

大きなエンジン音を立てトラックが三台通過する。それが通り過ぎた後にはオッサンらしき人物の姿は煙の
ように消えていた。

「でも仮にオッサンだとして、こんな街中でなにやってんだろうな?」

「やっぱり浮気ですっ!」

渚が拳を握り締めて言う。

「・・・まだ、これだけじゃ何も言えないだろ」

そう、もしかしたら人違いかも知れないし。渚をなだめつつ、古河家へ向かうことにする。




住宅地の中ほどに古河パンはある。古びた入り口をくぐるとレジに早苗さんが立っていた。相変わらず、店
の方はがらがらだった。

「お父さんはいますか?」

渚の第一声はそれだった。早苗さんは少し考えるように首をかしげる。

「えーと、ちょっと前にどこかに出かけてしまいました」

「草野球じゃないっすか?」

間髪いれずに聞き返す。

「バットが置いてあるので多分違うと思いますけど・・・。そういえば、今日はちょっと帰りが遅くなるから
お二人とは会えないかもしれないって言ってましたよ」

俺の質問に早苗さんは表情を変えず、いつもと変わらない笑顔で答えた。

やっぱり、さっき来る途中で見たのはオッサンだったようだ。

それにしてもバットも持たないでオッサンは一体どこへ行ったのだろう。そういえば、確かに今まで古河家
を訪問したときにも外出していたことが度々あった。

(確か、三ヶ月くらい前からだったかな・・・・)

もっとも、いつもは夕食までには戻ってきていた。

その時はちょっとした野暮用と言っていた。別に俺達もそのことに関しては特に気にはしていなかった。

だが、今日は帰りが遅くなる。それも、俺達に会えないかもしれないくらい。週に一度渚の顔を見るのが
楽しみなはずなのに・・・・

オッサンが浮気・・・・

(ん、ちょっと待てよ)

「早苗さんお邪魔しまーす」

「はいっ、ゆっくりしていってくださいね」

俺は店に早苗さんを残したまま渚を居間まで引っ張っていく。

「お前、大体何でオッサンが浮気してるって思ったんだ?」

早苗さんのほうをちらちら気にしながら俺は聞いた。そもそも、オッサンが一人で外出しているだけで
浮気と決め付けるのはおかしい。こいつは一体何をもってそう思っているのだろうか。

「実は・・・買い物に・・・だんご・・・帰っている途中・・・お父さん・・・知らない女の人・・・だんご・・・楽し
そうに・・・話したんですけど・・・走って・・・」

渚が神妙に話し始めた。つたない話し方なので、状況がいまいちよく分からない。

『誰か通訳さんいませんか〜?』

思わずそう言いたくなったが、深刻な状況みたいなので黙っておく。
頭の中でどうにかその話を整理するとつまりこういうことらしかった。

数日前に渚が買い物に行った帰りに、商店街にウインドショッピングに寄った。そのときにオッサンが
渚の知らない女の人と一緒に歩いていたというのだ。しかも、いちゃいちゃしながら。それを渚が変に
思い、声をかけたらオッサンは慌てたように逃げ去ったらしい・・・。

「って何でこの内容にだんごがでてくるんだよっ!」

「いえ、それはおもちゃ屋さんにだんごのぬいぐるみが飾ってありまして・・・」

思わず頭を抱えてしまう。

まあ、確かにその状況を考えれば浮気と考えられないこともないが・・・

「そのことは早苗さんは知ってるのか?」

渚がそんなこと言えるはずありません、というように首を横に振った。




昼間の商店街は日曜日ということもあって、買い物客で賑わっていた。よっぽどこの街には他に遊びに
行く場所がないらしい。

俺と渚はなぜか電信柱の影に小さくなっていた。

「おっ、出てきたぞ!」

少し離れた喫茶店からサングラスを掛けたオッサンが出てきた。渚が以前オッサンを見た場所だ。

渚の話だけではその真偽の判断は難しい。それなら、家で根拠のない憶測しているよりも実際に後を
つけて確かめるのが一番建設的な方法だ。

結局出た結論はそれだった。

「やっぱり女の子と一緒ですっ!」

確かにオッサンは女の子と一緒に歩いていた。黒髪のロングヘアー、細身で身長は女の子にしては
高いほうだろう。

ちょっと、遠くてよく見えないが・・・

「尾行大作戦開始ですっ!」

その一声で俺達は中腰になって尾行を始める。

「なんか、探偵になったみたいでワクワクするな」

「そんな、他人事みたいに言わないでくださいっ」

声を潜めこそこそと会話する。

「時に渚、早苗さんの誕生日っていつだ?もしかして、もうすぐだったりしないのか?」

「もう、とっくに過ぎてます」

少し考える。

「じゃあ、結婚記念日とか」

「それも、先月でした」

「そうか・・・」

一応、早苗さんに対するドッキリプレゼントの線は消えた。どうやら、ありきたりなパターンではなさ
そうだ。

(それじゃあ、まさか本気で浮気してるのか・・・?)

そう思うとだんだんオッサンのことが疑わしく思えてきた。

カサカサカサ・・・

俺達は電柱に隠れて走り、店の看板に隠れて走った。我ながら完璧な尾行だ。俺は案外こういう
仕事に向いているのかもしれない。

「お二人さん何やってんの?」

背後からの突然の声にはっとして俺は後ろを振り返った。

そこには、不思議そう・・・というより怪訝な顔をした柊勝平と藤林椋がいた。




-中編に続け-