朋也君のハッピー!性生活〜風子編・中編〜
                              ・・・・・・・・・・・・・・・鍵犬


腕時計に目を落とすと時刻は一時十分。俺は風子が指定した待ち合わせ場所にいた。

夏の太陽の光が、うす雲のフィルターを通して柔らかく地上に差す。時折吹く風が涼しくて、今日は
絶好の外出日和といったところだった。

「明日のデートは風子プロデュースですっ!!!」

拳を高らかと突き上げて言ったあいつの言葉が脳裏に蘇ってくる。

いままでのデートは俺が計画して・・・と言っても適当なのだが、商店街をぶらぶらしたり、ファースト
フードで食事したり、時たま映画館に行くというような感じだった。

最近そのコースも少しマンネリ気味なので、風子プロデュースのデートは興味半分、恐ろしさ半分
だった。

もう一度腕時計を見る。一時十五分。そして、待ち合わせ時間は一時ちょうど。

「おせぇ・・・」

時間には案外きっちりしたヤツなのに・・・

今までのデートを思い返してみても、大抵はあいつの方が先に来ていた。少しでも俺が遅刻しよう
ものなら言いたい放題言われていた。

(まさか寝坊してるんじゃないよな)

そんなふうに色々考えているうちにだんだんと悪いほうに頭がいってしまう。まさか、事故に遇った
んじゃないか。もしかして、誘拐されたんじゃないか。

(・・・いや、誘拐はありえねぇ)

心の中でそうツッコミながらも、いても立ってもいられなくなってくる。

近くの公衆電話に向かおうとした時、不意に背後から小動物の気配がした。

小動物は素早い動きで距離を瞬く間に縮めていく。

考え事をしていたせいで俺は振り向くのが一瞬遅れた。

ガバッ!!

(しまった!!)

刹那、手で口と鼻が覆われる。ここがもし戦場だったら完全に命は無いだろう。

ただ、ココは商店街・・・

「だ〜れだ?」

夏だというのに背筋に悪寒が走る。基本的には風子だと思う。いつもと違った気色悪い声色を
除けば・・・

「ふんほ」

「はい?」

「ふんほ」

「・・・・・・」

徐々に薄れゆく意識の中で、俺は必死に手を引き剥がす。

「お前は真昼間から商店街で人を殺すきか!!」

やっと風子を振りほどき、後ろを振り向いた瞬間、鋭いヒトデの衝撃が頭に走った。

ガツン!!

思わず頭を抑えてその場にしゃがみ込む。

「岡崎さん最悪ですっ!風子はウ○コじゃないです!!どちらかというと・・・・それも思い
つきませんっ!!」

「お前が、ずっと口と鼻を塞いでるからだろ!」

「それは、背が高すぎるから悪いんですっ!」

俺達のやり取りを道行く人が振り返り、クスクス笑いながら通り過ぎていく。傍から見れば
まるでコントのように見えているのだろう。

「・・・恥ずかしいから取り合えず落ち着け」

息を切らしながら風子が頷きその場は一時休戦となった。




俺達は昼下がりの商店街を目的を持って歩いていた。といっても、どこに行こうとしているの
かはこいつにしか分からない。

「なんで、今日は遅れて来たんだよ?」

俺の手を引き、わき目も振らず一直線に歩く風子にそう尋ねた。

「それは、待っている間もデートだからです。修学旅行は家に着くまでが修学旅行です」

「いや、後半の方は別にいらないからな・・・」

待っている間もデート、確かにそうかもしれないが・・・。

「岡崎さんのせいで、今日のデートの二番目に楽しいイベントが台無しになってしまいました」

二番目で殺されかけたということは、一番楽しいイベントでは死ねるのか・・・それは楽しみだ。

「ってお前アホだろ?」

「風子はどちらかというと、天才肌です」

俺達はそのままずんずん商店街を進んでゆく。風子は、商店街のはずれの方にある一軒の店
の前で立ち止まった。

「ここが、今日のメーンイベントです」

「無理に、英語っぽく発音しなくてもいいからな」

その店は店先に沢山の水槽が並べられていた。そして、その店の看板にはペットショップの
文字が・・・・




時刻は午後五時。夏の空はまだ明るい。

俺達は電車に乗って隣町の動物園までやって来ていた。

あの後、結局デートは俺プロデュースになっていた。映画のチケットも持っていたが、ペットショップ
から引き離す時の風子の顔があまりにも残念そうだったので、動物園にしたのだった。

最初からあまり期待はしていなかったが、あんな有害図書を読んでるくらいなら、デート雑誌も
少しくらいは読んでいて欲しかった。

(やっぱり、俺は利用されているのか・・・?)

祝日ということで、動物園は家族連れで賑わっていた。まあ、俺も子供を連れているようなもの
だが・・・

久しぶりの動物園は意外と楽しくて、ついつい時間を忘れてはしゃいでしまっていた。

サル山ばかり眺めてる俺を風子が膨れ顔で引っ張っていったところは、屋内で直接ヒトデに触
れることのできるコーナーだった。

「うわああっ、ここのヒトデは生きが良くて激プリチーですっ!!」

生ヒトデを持ち上げながら、うっとりとどこか遠い世界に旅立つ姿はそこはかとなく不気味だった。

その他にも、俺達はアシカのショーや犬猫ショーを見物したりして、気が付くとあっという間に二時
間が過ぎていた。




園内を色々巡り、さすがに歩き疲れた風子はさっきからベンチに座り一生懸命ソフトクリームを
舐めている。

ソフトクリームは食べる派と舐める派に分かれるが、風子の場合は想像通り舐める派だった。

「おい、ソフトクリームが溶けてるぞ!」

「わ」

流れてくるソフトクリームを慌てて下から舐めとる。

「今度は反対側だ!」

「わわっ」

今度は反対側を舐めとる。食べ終わるころには風子の口の周りはソフトクリームでベタベタ
だった。

「お前って、本と子供な」

「失礼です。風子は子供じゃありません。実年齢の百倍は大人に見られますっ!!」

ハンカチで口の周りを拭いながら怒る風子は、どちらかというと実年齢の半分くらいに見えた。

「ほお、じゃあお前が大人ならあそこに行ってみようか」

俺が指差した先。そこは、よく動物園にありがちなお化け屋敷だった。

風子の肩が一瞬ピクッと動いたような気がした。

大抵お化け屋敷は男の方が苦手だという。恐らく、男の場合女と違って驚いても悲鳴を上げ
られない分緊張が増すのだろう。

だが、俺はお化け屋敷とかは全然平気なタイプだった。

「どうした、やっぱり怖いのか?」

勝ち誇ったような俺の目を、負けじと風子も睨み返してきた。

「そんなこと、ありません。どちらかというと、ソフトクリームよりもお化け派です」

どうやら、ソフトクリームとお化けは同系列らしい・・・

「よしっ、それじゃあ行こうか」

「んーーーーっ!!」

風子の抵抗虚しく、俺はズルズルとお化け屋敷の方に引っ張っていく。

ホラーハウスと書かれたおどろおどろしい建物。

「ほら風子アレ見てみろよ」

指差す先には「失神注意・・・」と血で書かれたような文字。

「お、お、お化け屋敷なんて子供だましですっ!」

近頃、風子に弄ばれているお礼の意味を込めて、動揺しまくる風子の背中を押し、ひんやり
とした冷気の漂うお化け屋敷の中に俺達は踏み込んでいった。






-後編に続く-