かちゃ…
「…っ…」
 部室のドアを開けた瞬間、集中する視線に杏は息を呑んだ。
 この目はよく知っている。
 もはや、どのように持て余し切った性欲をぶつけてやるのかしか考えていない男の顔だ。
「じゃー頼むぜー、藤林」
 切り出したのは、倉庫に最初に現れた奴だった。
 既に制服のジッパを下ろし、自分の一物を取り出している。
「………」
 大勢の部員と汚らしいその肉棒を見比べながら、杏は己の命運を悟った。



       "Because of Love."   Side K / Second Half



 ちゅばっ、ちゅるっ…
「うはー、たまんねーなー、藤林のフェラ」
「マジで? おい、お前早くイケよ」
「……」
 ちゅるる…
 杏は冷たい部室の床に跪いて、部長の陰茎に口で奉仕していた。
 朝の目覚ましやら何やらで身につけた舌技を駆使して、少しでも早く済ませようとする。
「ふっ…ううっ…」
 惨めだった。
 なぜ、自分が名前も知らない男の一物を口で必死に慰めねばならないのか。
「うわ―、ぐちょぐちょいってる」
「まるで口マ○コってとこだな」
 周りではやし立てる部員たち。
 その言葉は、ぱんぱんに張り詰めた股間の怒張が放つ匂いと共に、杏の心を蝕んでいく。
「あっ…く。ダメだ、もう出る」
 どぴゅうっ!
「んぐっ?!」
 十二分に充填されていた精液の勢いは、杏の予想を超えていた。濁流のように押し寄せる汚濁を何とか飲み下していく杏。
 びゅるびゅる…
 ごくごく、ごく…
「ふ…ぅん…んん…」
 息が苦しく、目じりに涙が滲んできた。
 ちゅるるる…びゅっ
「うぉぉ…コイツ、最後まで吸ってるぞ」
「すげぇな、杏ちゃん」
 ごくっ…
 ようやく射精の嵐が過ぎ去った。
 名残惜しそうに部長が陰茎を引き抜くと、まとわりつく唾液と精液が杏の口端につ…と糸を引いた。
 目を潤ませて、精液を垂らす杏の顔は、荒い息をして赤くなっていた。その扇情的な光景に、周りの男子たちはますますいきり立つ。
「なんか手馴れてるみたいだからさ。いけるだろ、二本同時」
「お、それいい」
「おれも、見てみてぇ」
「というわけで、ほら、藤林。次おれらで頼むぜ」
「……」
 口の中の液をあらかた掃除した杏は、無言のまま、ただため息をついて男子二人の間に跪いた。張り詰めた陰茎が向かい合わせにさらされている。
「っ…」
 嫌悪を呑み込んだ顔で、その二対の陰茎の亀頭にれろれろと舌を這わせる。
 ほぼ開きっぱなしの口からは、たらたらと唾液がしたたり落ちていたが、杏はとにかく手早く済ませる
ことを念頭に置く。
「うっわ、舌べろんべろんいわせてるぜ」
「犬みてぇだな」
「メス犬だろ、メス犬。春原に飼われてる」
 好きで身に付けたわけではない性技を披露させられて、気丈な杏の目にも涙が滲む。
「うくっ…ぁ、だめだ、もうイクっ」
「早ぇよ…」
「うう、うぁ…オレもっ」
 手の中で肉棒がびくびくと震えた。
「っ…」
 びゅぶっ! びゅるるるっ!
 びゅっく、びゅるぅっ!
 咄嗟に目を閉じた杏の顔に、二条に精液がほとばしった。
 恥辱の涙もなにも押しつぶすように、白濁が杏の顔のあちこちに、絡み付いて、滴り落ちる。
「…っ、ぅぅ……」
 おぞましいその感触と匂いに、杏は胃液が逆流する思いを味わう。
 しかし、次の肉棒が強引に杏の口にねじ込まれたので、実際に吐くことはなかった。
「ふぐっ、んんっ…!」
 じゅぱっ! じゅぶぶ…
 次の男子は、杏の喉奥に遠慮なくぐいぐいと肉棒を押し込んでくる。
 杏の目尻にじわ、と涙が浮かぶのを見て、昏い愉悦に低く喉を鳴らす。
 そうして、代わる代わる部員たちは、杏の唇を割って己の陰茎を杏の喉に突き立てていった。



 全員が杏にフェラチオをさせた後には、杏の全身に彼らの精液が飛び散っていた。汚れにまみれていない場所を見つけ出しては、面白がってそこに果ててゆくのだ。
 その汚れを胃袋に収めた回数も少なくない。杏は全身を包む悪臭と感触、異様な疲れを訴えるアゴなど、苦しむ要素に事欠かない状態だった。
「はぁ…はぁ…」
 そんな彼女とは対照的に、部員たちの股間のモノはまた徐々に硬さを帯びていく。
 なにせ、同じ学校の女生徒、それもとびきりの美少女が、全身を汚された痴態を目の前で晒しているのだ。
「口マ○コは散々使ってやったから、今度は…ホントのマ○コだな」
 部員たちはぼろぼろの杏に襲い掛かる。
「ぁ…やぁっ…」
 普段の強気が嘘のように、抵抗は微弱だった。
 杏はあお向けに押し倒され、制服の胸元を強引にはだけられる。
 汚れた制服の下から、すべらかな肌と、可愛らしいライトグリーンのブラが現れた。
「おぉ…」
 誰かが思わず息を呑む。
 取り立てて大きいというわけではないが…形のいい双丘が布地を盛り上げ、のぞく素肌は薄桃色に色づいて、ところどころに汗を滲ませている。色香が立ち昇っていた。
 後は餌に群がる動物だ。ブラを引っ張りあげ露出した乳房の先端が硬くとがっているのを目ざとく見つけ、「淫乱」とはやしたてては無遠慮に手を伸ばしていじりまわす。
「ふぅ、っ……んくぅっ……っあ」
 嫌でも身体は反応する。杏はびくびくと伝わってくる快感に、いやいやをするように首を振る。
 拍子に顔の上に溜まっていた精液がぴちゃぴちゃと飛び散って、徹底的に汚されたことを思い知らされた。
「へへ、オレはこっちに」
「ッ…?!」
 下半身が急に外気に触れる。スカートをたくし上げられたのだと気づいた。
 がばっと開かれた杏の股…その最奥から、ひとすじの透明なラインが引かれていた。
 ここぞとばかりに部員たちははやしたてる。
「おぅ、もう濡れてんぞ、藤林の奴!」
「すげぇな…やっぱ淫乱かよ」
「オレらのチ○ポがうめぇモンだから、コーフンしまくったんじゃねぇの?」
「そ、そんなこと…っ」
 自らの呟きの弱々しさに、杏は歯噛みした。
 選ぶならば、最後の台詞が最も的を得ているといえるだろう。幾度となく春原から交わりを求められてきた杏の身体は、雌の本能に従って雄の受け入れ準備を整えてしまっていた。
 じゅぷっ!
「っ――つうっ!?」
「ほら、十分いけんだろ。ここまでなってりゃあな」
 遠慮なしに割れ目に突き入れられた指が、杏の全身の筋肉を動かした。反射的に逃れるように身じろぎをして、
「っ、んんっ!」
 周りの部員たちに床に押し付けられる。両腕をつかまれて、杏が身体の中で一番動かしているのはヒクヒクと蠢く秘肉になってしまった。
「おら、お待ちかねのモンだぜっ」
 ずぶすぶうっ!
「くあああっ!」
 気遣いも何もない、傲慢なまでにな真っ直ぐな剛直の侵入が、杏の奥まで刺し貫かれる。潤っていた愛液が男の陰茎によって膣口の内外に押される。びちゃびちゃと蜜を飛び散らせながら杏は身をよじるが、がっちりと押さえ込まれた四肢は動かせず、切れ切れの悲鳴を虚空に放散するのみである。
「はぁ…ああ、奥まで入ったぜぇ」
 限界まで己を杏に埋没させた男は、きゅうきゅうと加わる膣圧に、早くも達しそうになっていた。
 少し呼吸を整えてそれを堪えると、本格的に快感を貪るべく腰を動かし始める。
 ずぶ、ずぶずぶ…ぐちゅぅぅ…
「うぁ、はっ、っぅ……」
 一定のリズムで突き上げながら、杏は周りを取り囲む部員たちではなくただ天井を見つめていた。
 犯されている。
 いままでも口を犯され、胸をまさぐられ――散々辱められて来たが、ついにその秘所までにも侵入されてしまった。
(もういい…)
 仕方がない。
(受け入れるしかない…)
 自分の不始末から出た噂が妹の恋路に影を落とさぬよう、彼と交わることを決意したときと同じように。
 彼女は諦めた。
 妹がその恋を実らせてから――彼女は生来の気の強さの下に、ずっと諦念を抱えて暮らしてきた。
 だから、今度も諦めて受け入れるだけだ。
「ううっ、もうそろそろ…!」
 ぴくぴくと震えるのは、射精寸前の肉棒であるということは承知している。
 どうせ、やめろと言ったところでやめないだろう。
 そう心中に呟いて、杏は自らの意識を手放した。
「くぅっ、出る…っ」
 びゅるるっ! どく、どっくっ…
 雌の本能が昇りつめさせた意識の隅で、子宮に熱い精液がなみなみと注がれるのを、杏は感じていた。



 びゅるびゅるぅっ…!
「ひあ…」
 びちゃびちゃと水っぽい音がして、杏の顔に汚濁が上塗りされている。
「へへ…」
 その杏の顔に射精した部員たちは、負けん気の強い彼女を墜としていく征服感に酔いしれていた。
 ずぶっ、ずぶっ…
「う、うぅ…ぁぅぅ…」
 穴という穴を埋め尽くす陵辱劇から一転、部員たちは杏を精液でどろどろにしていく行為を堪能していたが、唯一、彼女の秘所だけは、今も男の肉棒でいっぱいだった。
「おら、藤林。こぼすんじゃねえぞ」
 ずぶっ、ぐちゅっ
「ふぁ…ふぁいっ…」
 じゅるじゅる…
 顔中が精液まみれだったので、強く息を吸引するだけでも、杏の口の中は汚液で満たされていった。
 すぶぶぅ…ぬろぉぉ…
「ぶぶうっ……ぐぷ、じゅるるる……」
 激しく突き上げられながらも、杏はけなげに顔中の精液を両手で拭い、口元へと運んでいった。
「んぐ、んぐっ、んぐっ、ぐぷっ、ングッ…」
 嚥下した端からまた精液を集め、飲み下していく。
 途中からの意識は半ば飛んでいた。
 ずぶっ、ずぶっ、ずんっ…
 ぬちゃぬちゃ…
 じゅるるるっ……
 白濁の密度が下がって、実に久しぶりに杏の地肌が伺えた。
 この乱交が揺さぶり出す汗と、自らのよだれと、男たちの液にあちこちがどろどろだった。
 前髪は濡れそぼり、額に張り付いていた。顎からは時おりとつとつと白い線が引かれる。
「はぁ、はぁっ……うぷっ」
 青ざめた顔で杏が地獄の責め苦をクリアした息をついた。口の端がこぽこぽ、と泡立つ。
 ずんっ!
「ひあああっ!」
 どぴゅっ! びゅるるっ!!
 朦朧とした意識を突如灼く熱さ。
 奥深くまでつき込まれた剛直が、杏の子宮に向かってその精を放射する。零距離射撃のような威力に、杏の意識が引き戻された。
「うああ……あぁ…」
 下腹部がどくどくと熱いものに満たされている。
 どくどく…びゅぴゅっ……
「ああ…奥で出してやったぜ…」
 とぽ、という音と共に陰茎の亀頭が引き抜かれた。その割れ目からはごぽごぽと放たれた精が逆流してきていた。
 部員たちに輪姦されつづけて、中で出された回数も優に二桁は超えているだろう。だが、次々と襲い掛かってくる男の剛直に、杏は妊娠の恐怖すら抱く暇はなかった。



「ふいー…」
 額の汗を拭った部員は、ぐったりとロッカーにもたれかかり、荒く息をつく杏の長い髪を持ち上げた。
 ぽたぽたと液をしたたらせる己のものを、それでさっと拭う。
 陰茎の掃除に使われていないところも、汚れていないところのほうが少ない有様であった。
「……………」
 ひゅー、ひゅー…と杏が息をするたび、こぽこぽとささやかに白濁した泡が立つ。
 それは衰弱しきった杏本人の状態を表しているようだった。
「終わったかー?」
「おう…ちょっと待てよ」
 その部員はごそごそとズボンを引き上げると、
「じゃあな。後頼むぜ」
 汚濁に塗れて動かない杏にそう吐き捨て、他の部員たちのところへ歩いていった。
「ふー、運動したな」
「ああ。おれ、なんかひりひりしてるぜ」
「ムケたまんまになっちまったりしてな」
 先ほどまでの肉欲の宴の余韻に浸りながら、下品な冗談を飛ばしあう。
 どっと笑い声を巻き起こしながら、部員たちは去っていった。
 ……。
 ………。
「………………うぷっ……」
 たぷたぷと精液を溜め込んだ胃腸が不自然に蠢動する間隔に、杏は少しずつ意識を取り戻す。
 ぴくり、と身じろぎをした瞬間だった。
「ぅぁ…」
 どろ…っ
「ひぁ……ぅっ……」
 どろどろどろ……ごぽぽぽ……
 だらしなく口を開いていた杏の割れ目がその拍子に、奥に溜め込んでいた莫大な量の精液を垂れ流し始めたのだ。
「う……ぅぅ……うううぅ……!」
 陰茎の注送とは違えど秘所を押し広げられるおぞましい感覚。
「うああ……うぇぇんっ……」
 その感覚がそれまでの陵辱の限りの仕打ちをフラッシュバックさせる。
「うぅぅ…ううっ、うぁぅぅ……」
 杏はひたすらにしゃくりあげていた。
 涙が枯れるまで泣きそうな勢いだったが、不意に彼女の様子が変化した。
「う、うぅ―――うげっ」
 きっかけがあれば一瞬だった。
 杏の口から大量の白濁が噴出した。
 まったく食物の含まれていない吐瀉物を、べちゃべちゃと部室の床にぶちまけていく。
 あまりの勢いに呼吸すらままならない。
 上下の口から精液を垂れ流して杏は悶絶する。
「げぇ………ふぅ、はぁぁぁ……」
 逆流が止んだ。
「…うぅ……」
 最悪だった。
 空っぽの胃は妙な痛みを訴え、酷使された顎は微かに震え、前後の穴にはじんわりとした痛みが粘液のようにへばりついていた。
「くっ……」
 身を起こす。
 床に手をつくとべちゃっという音。辺り一面汚液の海だった。
「………」
 のろのろと制服を身につけていく。
 持ち主同様、精液でどろどろにされている為の感触が悪夢のようであった。
「……っ…」
 屈辱と――寒さで身が震えた。
 部室内はひどい有様だったが、今はどうしようもない。
 杏はとぼとぼと手近な場所――寮の陽平の部屋へと向かった。
 身体の汚れを落とし、服を着替え、部室を掃除して、体育倉庫で昏倒したままの陽平も連れてこなければならなかった。



     ― § ―



「ふぅ…」
 杏は、自宅の玄関先で靴を脱ぎながら、深く息をついた。
 それでも、身体中にまとわりつく疲労は消えない。
 しんとした廊下。
 電気は灯っていたが、人の気配はまったくなかった。
「はぁ…」
 もう一度ため息。
 壁の時計は、すでに十二時を回る時刻をさしていた。
 彼女の両親は今夜は帰ってこないが――そうでもなくとも、就寝していておかしくない時間帯なのだから、人気がないのは当たり前だった。
 重たい足取りで二階へ昇る。
「……」
 自分の部屋――の隣に、もうひとつドアがある。
 双子の妹の部屋。
「………」
 そっとノブを回すと、鍵は開いていた。
「不用心ね…」
 中には、静かな寝息が二つ。
「……」
 わかっていたことだ。
 玄関に見慣れない男物の靴があったし、そもそも椋から今日の予定は聞かされていた。 杏は静かに部屋を出て、自分の部屋に入った。
「……っく……
 ……ぅ、ぅ……ぁ……ぐす…ぅ…」
 そして、声を殺して泣いた。
 恋人と幸せに眠る妹のすぐ傍で、杏はひとりで泣きつづけた。

 ……。

「…………」
 涙を流せば、後は虚脱するだけ。
 しんと静寂が落ちる部屋の中で、杏は幾度となく繰り返した思考を今も呼び出した。
 辛いのは仕方なかった。
 なぜならば、それは贖罪なのだから。
 あの仔との思い出の地などで心を浮つかせてしまった、自分への代償なのだから。



     ― § ―



 ある日唐突に、藤林 杏と春原 陽平の恋仲は解消された。
 それについて憶測を並べ立てる者は無論居たが、当事者のひとりである春原がその追求を受けることはなかった。彼は、自主退学ののち、実家へ帰っていた。金髪だった頭を黒に戻し、松葉杖をついたまま。
 当然、その勘ぐりは残った彼女――杏のほうへと向かった。
 彼女は一時期、現在の藤林 椋の恋人である岡崎 朋也ともその仲を噂されたこともあって、その手の話も蒸し返された。当然、朋也と椋は不愉快な気分を味わされた。
 しかし、その噂はある時を境に急激に消えていった。
 杏が、陽平と付き合いだした時と同じように。

 …ちなみに、補足というほとではないが、その頃を境に藤林 杏はいろいろと変わったところで目撃されることが多くなった。
 ざっと挙げるならば――学校の体育倉庫周辺、深夜の公園の公衆トイレ、そして…産婦人科の前など。


 これが何を意味するのかは、平穏に暮らす普通の学生には預かり知れないところである。

   (了)