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<Epilogue for Exception>





私は本当は臆病な人間だった。



だから「あの世界」で私の番が来たとき、他のみんなみたいに「理樹君のため」には動けなかったんだ。



理樹君は私に「恋」を教えてくれた。

知識としてしか知らなかった感情を教えてくれた。

きっとみんなは、その理樹君の感情を利用して、理樹君を強くしていったのだろう。



だけど私は臆病だから、失うのが怖かった。

「今」側にいてくれる理樹君が、明日にはいなくなっているかもしれない。

それが、たまらなく怖かったんだ。



その恐怖を振り払うために、私はその世界で理樹君とともにいることを願った。

理樹君が教えてくれた「恋」という感情を、もっともっと知りたいと思った。



―それがどんなことかも、知らないままに。





結果として、その私の願いはみんなを裏切ることになった。





その世界が存在する理由はただ一つ。

理樹君と鈴君を強くするため。



そのために、私以外のみんなは自分を犠牲にした。

いや、そうではないな。ふたりに捧げたんだ。

「自分」という存在そのものを。

そして、世界はそれを繰り返すことで何とか形を保っていたにすぎなかった。



その中にあって、私はみんなとは反対の行動をとった。

理樹君を、独占したいと思ってしまった。

その願いは世界の存在理由とは相容れない。

私の願いが、世界を少しずつ崩していたんだ。



私がそれに気づいたのは、「終わり」が近づいてから。

理樹君に本当の意味での目覚めの兆しが見え始めてからだ。

それを知ったとき、私は後悔の念で押しつぶされそうになった。



このままでは、理樹君が強くなれないまま現実を見てしまう。

それを避けるために世界を繰り返してきたのに。



なぜもっと知りたいと思ってしまったのか。

なぜずっと一緒にいたいと願ってしまったのか。

思い返せば、誤りはいくつもあった。

私のせいだ―



でも、まだかろうじて修復することは可能だった。

簡単なことだ。

原因は、私が理樹君を独占したいと思ったから。

だったら、この世界での私と理樹君との日々を、つまりは「今の世界」を、「なかったこと」にしてしまえばいい。



楽しかった日々は、私の見た夢。

その夢が醒めてしまえば、それで「この世界」は終わる。

理樹君も巻き込んでしまったから、理樹君には別のゆめを見てもらわないといけないな…

本当に、すまない。





でも、私は、



もう、十分です。





この世界で、私は、

今まで感じたことのない感情を抱き、

今まで知らなかったことを知り、

今まで会ったことのない「私」に出会い、



そして、恋をした。



それだけで、満足だったと自分を抑えつけ、



私は、目覚めた。









何も覚えていないはずだった。

でも、携帯電話に届いたメールの差出人には覚えがあった。



どうしてだろう。



私が還ってきたのか、「彼」が還ってきたのか。

まだそれはわからないけど、確かに覚えていた。



直枝理樹、という名を。



ドアの向こうで、彼の携帯電話が鳴る。鳴らしたのは、私のそれ。

私と彼とは、再び繋がった。ゆめの中なんかではなく、確かに。

それは本当に、嬉しかったんだ。



「きっとそこにいくから、まってて」

そう書かれたメールは、終わってしまった6月20日付けになっていた。

「今日」は、6月21日。

でも、ちゃんと、来てくれた。

たったそれだけで、私は満たされる。





―もう一度、恋をしよう―





ゆめの中で最後に交わした約束。それを果たしたいと、そのとき思った。





「もし、だ

 

 またキミと過ごして、この気持ちを覚えていたなら

 …そのときは、きっと私から言うよ

 

 誰もいない放課後の教室にでも、キミを呼び出して

 

 …好きなんだ、って

 恋してるって方の、好きなんだって…」





思っていても、行動に移すのは難しい。

覚悟ができたころには、既に秋になっていた。



叶うはずの願いなら、恐らくはもっと簡単に言えただろう。

でも、私はもう、傷つくことが辛いことだと知ってしまった。

それが私の決心を鈍らせる。



理樹君は何も覚えていない。

だからきっと、私の想いは届かないだろう。

理樹君には、鈴君がいる。

それは私たちが望んだ結果なのだから、喜ばしいことのはずだ。



だからこそ、私は怖くなる。



あの世界で犯した過ちを、繰り返すのではないか、と。





でもそれは、傷つくことをただ怖れているだけ。

失うことを怖れたあのときと何も変わらない。



気付いた。



私も、強くならなくてはいけないのだ。





「忘れたままでも 生きていける」。

確かにそうだ。

でもそれでは、何も解決しない。



「心を閉ざしてしまうなら それもいい」。

だけど、



「ただ一つとっておきの 贈り物を持ってるなら」、

私はそれを贈りたい。





伝えよう。



偽らない、私の気持ちを。



きっとそこから、私の本当の旅が始まる。









メールを出した。



「今日放課後6時に、教室に来てくれないか」



たったそれだけの文章を書くのに、かなり時間がかかってしまった。

私はかなり緊張しているらしい。緊張…それも今まで知らなかったことだ。



返信はすぐに来た。



「わかったよ。でも突然、どうしたの?」



とりあえず、ちょっとな、と返しておいた。

もう、逃げることはできない。



理樹君がいつかの世界で強く生きることを誓ったように、

私も、今、誓おう。これからは、強く生きると。





「どうしたの、来ヶ谷さん」



「うん、ちょっと理樹君に言いたいことがあってな」



「笑わないで…聞いてくれるか?」



これが私の精一杯だった。でも、理樹君になら伝わるはずだと思った。



「…うん、笑わないよ。何か大切な話なんだよね?」



「ああ…」



赤面しているのが自分でも分かった。

今から私は告白をするんだ。そう考えただけで、この場から逃げ出してしまいたくなる。

この感情は一体何だろうか。多分、怖いんだろうな。



でも、それではいけない。

言うんだ。あの世界での日々に繋がるために。





「好きなんだ」



「え、それって…」



「うん」



「恋してるって方の、好きだ」





わたしのほんとうのきもち。

きみにいだいたこいごころ。



届かなくてもいい。伝わってくれれば、それで…





どれくらい時間が経っただろうか。

10秒くらいだった気もするし、もう1時間くらい経ってしまったようにも感じる。

理樹君以外に向けられるべき感覚が、ひどく曖昧だった。



「来ヶ谷さん」



理樹君が口を開いた。きっとその口は、私を失恋させる言葉を紡ぐのだろう。



「ありがとう」



「でも」



「今の僕はその気持ちに応えることはできない」



「僕は鈴をずっと守って生きていく」



「鈴のことが本当に好きだから」



「いつか僕らがそんな関係だったとしても」



「『今』の僕らはそうじゃないから」



「だから、ごめん」



「約束を守ってくれて、ありがとう」





今、理樹君は、なんと、言ったのだろうか。思考が追いつかない。



「いつか」?「そんな関係」?「約束」?



「理樹君っ」



結論を導き出すより前に、聞いてしまっていた。



「何で、覚えているんだ…」



理樹君は、忘れたはず。忘れてなければいけないんだ。





わずかな沈黙の後、理樹君はうつむいて、答えた。





「僕にも分からないよ」



「ほとんどのことは覚えてないんだ」



「だけど、大切だったことは朧気だけど覚えている」



「いつかの日に来ヶ谷さんと付き合っていたこと」



「『終わり』の前に約束をしたこと」





―そうか



  私と理樹君の想いは共有されていたんだ



    失われては、いなかった―





「でも、『いつかの日』はもう壊されてしまった」



「もう、ないんだよ」



「そして、すべての夢が覚めた今の世界では、もうゆめは見れないんだ」



「だから、僕は来ヶ谷さんを傷つけないといけない」



「ごめんね」





―でも、その想いは



  もう届くことはなくて



    冷たい現実を私に突き付ける―





「気にしなくていい」



ああ、これが「失恋」というものなのか。



「私は、理樹君が覚えていてくれたことが、嬉しい」



こんなにも、胸が苦しくなるのか。



「…なあ、理樹君」



感情が、溢れてくる。



「お願いがあるんだ」



胸の奥に隠してしまっていた感情。



「一度だけでいいから、抱きしめて欲しい」



堰を切ったように、激しく流れ出す。



「理樹君の胸の中で、泣かせて、くれ…」



最後は言葉にならなかった。涙をこらえきれなかったんだ。



私は理樹君にすがりつき、初めて声を上げて、泣いた。









「来ヶ谷さん、大丈夫?」



ひとしきり泣いた後、理樹君が聞いた。



「うん、おねーさんはもう平気だぞ」



…強がり。滑稽だと自分でも思う。



「…そう」



理樹君も深くは聞かないようだ。その優しさが、どこまでも理樹君らしい。



「なあ、理樹君」



「明日からも、私と友達でいてくれるか?」



振った、振られたという事実が、互いの関係に気まずさを残すことは少なくないと聞く。

私も正直、それは怖かった。

ああ、これも弱さなのだろうか。



「もちろんだよ」



理樹君はさも当たり前のように言う。

それを聞いた時の私は、さぞや安堵した顔だったろう。



「僕たちは、リトルバスターズだ」



「去年までは5人だったけど、今は10人で」



「そしてその10人のうち、誰が欠けても、ダメなんだ」



「ふふっ」



それを聞いて、私は笑う。



いつからだろう。

笑うことが自然になったのは―



「少年は、強くなったな」





私も、強くなれる気がした

恋を知り、傷付くことも知った。

明日の私は、きっと今日の私とは違う。

だから、きっと―



そう、思えた。





泣いた後はきっと、笑えるはずだから

明日はきっと、いい日になる

あの輪の中なら、私は「わたし」でいられる

今からでも、遅くはない



あの「リトルバスターズ」という輪の中でなら

きっと前を向いていられるはず



さあ、今



自分の力で、歩き出そう―